雨が降っている。
今年は、まだ桜をゆっくりと見れていないので、散ってしまわないか心配。
雨が降っている。
静かに、しかし確実に、桜を打ちつけている。
今年はまだ、ゆっくりと見ていない。
時間がなかったのか。
それとも、俺がそれを後回しにしていたのか。
散ってしまう前に、見られるかどうか。
それだけが、今の俺には、分からなかった。
雨が降っている。
静かに、しかし容赦なく。
打ちつける雨粒、散りゆく花びら、流れていく時間。
桜とは何か。
儚さの象徴か。
それとも、散る事にこそ意味があるのか。
咲き誇るのはほんの一瞬、あとは散るのみ。
それはまるで、戦場に散った無数の命のようだ。
男は立っていた。
雨の中に、ただ一人で。
装甲は泥に汚れ、引き金を引いた指に、感覚はない。
見たいと思いながら、時間は過ぎていく。
追われる戦場、積み重なる屍、遠ざかる安らぎ。
気づけば花びらは、雨に打たれ、音もなく地に還っていく。
間に合うのか。
間に合わないのか。
ゆっくりと桜を見上げる、ただそれだけの時間が、なぜこれほどまでに遠い。
なぜ戦いは、これほどまでに人を急き立てるのか。
なぜ季節は、人を待たないのか。
散る前に。
消える前に。
それだけが、今この瞬間、男に残された切実な願いであった。
次回「散り際」。
雨はやまない。
花びらが地に落ちるまでに、男は間に合うのか。

